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2013年 07月 18日 |
 ※できれば自民党改正草案2012年版を参照しながらお読みください。


 間もなく参議院選挙の投票日を迎えます。選挙の争点の一つが<憲法改正>とも言われているのはきっとご存知でしょう。参議院の選挙の結果次第では憲法改正の発議が可能になると言われています。しかし、では自民党政権はどのように憲法を改正しようとしているのかご存知でしょうか?実は、ご存知ない方がほとんどなのではないでしょうか。キリスト者であっても例外ではないようです。これはとても奇妙な現象ではないでしょうか。実は昨年2012年に自民党から改正草案が発表されています。当然のことながら、この改正草案にもっと注目が集まっても良いはずなのですが、現実にはそうなっていません。確かに部分的に「国防軍」と言う言葉については聞かれますが、他の部分について、または改正草案の全体像について触れられているのは極めて稀です。なぜでしょうか。一つ考えられるのは新聞やテレビで報道されることがあまりないからです。もう一つは、雰囲気や空気感に流されるのは今の時代のなのかもしれないと思います。憲法の問題よりも経済のこと、お金こそ関心事なのです。そう考えるとこの現象は極めて恐ろしいことです。そういうわけで今日は、この草案を実際に共に読んでみようと思いました。ただ時間に限りがありますので短く要点を絞って、お話しすることにします。

1.憲法改正か新憲法制定か
 憲法学者の伊藤真氏は、この改正草案は「憲法改正」というよりは「新憲法制定」と言うべきではないかと指摘されています。それは改正案が、現憲法の根本価値を否定しているからです。現在の憲法は、「主権者・国民が国家の権力濫用を防ぎ、国家に正しく権力を行使させるための法」という考えで作成されています。これは立憲主義という近代憲法の核となる考えかたなのです。要するに憲法は、国家、権力を持つ人たち(為政者や公務員)に向かっているのです。憲法を守らなければならないのは、国家の側であって、国民ではないのです。ところが、自民党の改正案はこの憲法の中心を180度変えてしまっています。憲法が、国民に向かい、国民の自由や権利を制限するものになってしまっています。国家の権力を制限するという憲法の本来の機能は失われて、極論ですが国家はなんでも好きなことをすることができるようになっています。それはこの改正案を読んでいただければ誰でもすぐにわかるのです。根本価値が変えられているわけですから、これを<改正>と呼ぶことはできず<新憲法の制定>と言うべきだということになるのです。野党の方々がよく<改悪>と言われて批判されているのを聞きますが、より破壊的なイメージを私個人ももっています。

2.前文について
では前文から読んでみましょう。前文は言ってみれば憲法全体の基本的な考えを表す看板です。この草案の前文からは「国民」よりも「国家」を優先し、国民に愛国心を求める方向性が明らかになっています。その証拠に、現在の憲法では、第1段落も第2段落も「日本国民は」という言葉で書き出されていますが、草案ではいずれも「日本国」はで始まっています。そして、「天皇を戴く国」と第一段落にあります。国家の尊重は天皇制(国家神道)の強化と結びついています。現憲法の国民が主権者であるとの強調は後退してしまって、国民は天皇の下に従属するという考えに代わってしまっています。
 平和主義も後退し、「我が国は平和主義の下、世界の平和と貢献する」(第2段落)とされ、自衛隊の海外派遣が暗示されています。過去の侵略戦争の加害責任に言及されることもありません。
 第3段落でようやく「日本国民」が主語になります。しかし、そこで「国と郷土を誇りと気概を持って守る」とあり、所謂、愛国心が国民に向かって強調されています。

3.  天皇について
 第一条は、「天皇は、日本国の元首であり」とあります。現在の憲法では「象徴」とされていますが「元首」に置き換えられています。自民党は「天皇が元首であることは紛れもない事実」と説明していますが、この意見に賛同できる人は少数です。元首は外国に対して国を代表する存在で通常は総理大臣が元首とされます。前文に「天皇を戴く国家」と位置づけた同様に、天皇制国家の強調の考えが見られます。
 またこの第一条と関連して、第三条では国旗国歌として日の丸、君が代が憲法の条文にあげられています。すでに国旗国歌法で、このことは決められていますが、それをあえて憲法にも明記しているわけです。さらに問題なのは第三条2項です。この条項は、日の丸・君が代尊重義務を国民に課するもので、思想・良心の自由を侵害しています。キリスト者の公立学校の教師の中には卒業式や入学式の君が代斉唱時に、起立しなかったために停職になったり、辞職しなければならなくなった人たちが既に現実におられます(キリスト者ではない方々にもおられます)。憲法が改正されるなら、こういうことはより頻繁に起こるようになるでしょう。否、教師だけではなく、もしかしたら、保護者たちや、さらには子供たちまでも罰せられることも考えられます。

4.家族の助け合いが義務化
 自民党の改憲案では、夫婦平等などを定めた24条の冒頭に家族の規定が新しく加えられています。家族は「社会の基礎単位」であり、「互いに助け合わなければならない」とされています。もともと現在の24条は「家」が過度に重んじられ抑圧されていた女性の解放のために設けられた法とされるが、昔ながらの「家」への回帰が見られるのではないでしょうか。国家から憲法で、家族のことまで云々されるのはどうでしょうか。国家が、私たちの家庭や心の中にまで入ってくるのは恐ろしいことです。
今回の自民党草案には他にも「日の丸君が代尊重義務」「領土・資源確保協力義務」「緊急事態指示服従義務」など、国民への義務規定が多いのです。一言で言うと、抑圧的で、息苦しくなります。全体主義という言葉が浮かんできます。このような国のかたちをキリスト者も、そうではない人達も望むのでしょうか。

5. 九条  戦争ができる国へ
 憲法草案の本丸は九条と言われます。現在の九条は「戦争放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を明記しています。そのままだと自衛隊は憲法違反になってしまうわけです。それに対して政府は、海外で武力を行使することは認められないが、自国への攻撃から守るために戦うことができる、だから自衛隊であれば合憲と解釈してきました。矛盾を抱えつつも、九条は日本が海外に侵攻していくような武器を持つことを抑制してきました。ただ近年は1991年にはペルシャ湾に、2004年にはイラクに自衛隊を限定的とはいえ派兵している。憲法の歯止めは揺らいでいるが、この歯止めはこの改正草案では完全に外される。九条から「戦力の不保持」と「交戦権の否認」は削除。「戦争の放棄」は残すが同盟国への攻撃には日本が反撃することも含め、「自衛権の発動」を妨げないという条文が加えられている。つまり、時の政権が「自衛権の発動」と判断すれば戦争もできることになります。戦争はいつも「自衛」の名のもとになされることを歴史は教えています。また憲法には国防軍は国民を守るとありますが、それも歴史は異なる証言をしています。軍というのは「国」を守っても「国民」は守りません(沖縄の経験)。

6. 第二〇条 信教の自由の侵害
 信教の自由を保証した二〇条の改正案では政教分離の原則が弱められています。まず気になるのは現行憲法の二〇条第1項から「政治上の権力を行使してはならない」が削除されています。これを削除することで、宗教団体が与党になって権力を行使しても問題にならないことになります。さらにもう一つは、政教分離を規定した第3項に、「ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りではない」と但書が入れられています。これは明らかに靖国神社の公式参拝に根拠を与えるためと思われます。総理大臣がA級戦犯を祀った靖国神社に参拝してもそれは社会的儀礼とされます。また町々で自治会をとおして、町会費が神社のために用いられても社会的儀礼となります。ここでも私たち少数者のキリスト者は困難な状況に追い込まれることになります。

7. 結び
 以上が改正草案の要点です。なぜ、今日、この草案をここで読んだのか、よくわかっていただけたのではないでしょうか。一体、この草案のとおり、憲法改正がなったなら、一体どうなるのでしょうか。皆が笑顔で光輝けるのでしょうか。ほんとうの意味でこの国を愛し続けることができるのでしょうか。キリスト者であるなしに関わらず、そうではないと断言できます。小さな町のひとりの牧師にすぎませんが、この国のすべてのキリスト者に、またこの時代を懸命に生きるすべて人たちに心から呼びかけたいのです。
 この憲法改正は間違っています。誰もが騙されないように、目を覚ましていなければなりません。
                               関キリスト教会牧師 橋谷英徳

・主な参考文献
 伊藤 真 著 「憲法問題 なぜいま改憲なのか」 PHP新書 2013年  
 木村 庸五著 日本キリスト改革派教会役員修養会「私たちの教会は憲法改正の動きにどう対応するか」 2013年

.2013年7月18日に関キリスト教会の集いで行った講話から再録したものです。
by rcjhashi | 2013-07-18 18:19 | etc |
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